大臆病者

 徳川家康の陣所に普請奉行兼御使役の佐久間政盛と山本頼資という者がいた。1614年11月26日の朝、山本頼資に対して小栗又市郎が嫌みを口にした。
「今度、御使役になった者の中に大臆病者がいて、諸大名の陣の使いに行っても竹束の外に出ないようにしていているので笑われているらしい。幕府として面目がない、とも言われているようだ。この前、佐竹義宣の陣に行った時に頼資の姿はなかったようだが、そういう話になっているらしい」
 山本は小栗と日頃仲が良かったが、聞き咎めて「誰が命を惜しみ臆病にするものか」と苦々しく反論した。
「お前のことではない。臆病者の噂だぞ。ただし臆病の覚えがある者は聞き逃せないのだろうな」
 小栗は皮肉を言いながら笑った。

 その場にいた佐久間政盛は知らない顔をして聞いていたが、二人は口論となり騒ぎ始めた。そこに家康との話が終わった本多正純が来て事情を知った。
「二人の議論は当然のことです。二人のような古老達が武道に厳しいので若い者達の働きが良くなっていることは上の人間にも知られています。それに比べるとこのような議論は大したことではありません。二人の苦労にはかける言葉もありませんので、それに報いるために私が食事をご馳走しましょう」
 にこっと笑いながらなだめて食事と御酒を振舞ったため、口論が止んだ。みんなは誠に正純の智恵で問題なく喧嘩が納まったと噂した。(『難波戦記』)

若宮八幡宮
大阪市城東区蒲生3丁目にある若宮八幡宮(佐竹義宣陣跡)

管理人・・・原文の小栗の台詞に『頭に口のあるままに人のことをいうようなものだ』という諺が出てきます。思ったことをすぐ口にするという意味だと思います。

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