直孝の武功言上
若江の戦いで井伊直孝は木村重成と接戦の上、勝利した。その夜、徳川秀忠から佐久間将監、徳川家康から横田重量が井伊軍の陣所に来て、その日の戦いで手柄を上げた者と死傷者の調査を行なった。
まず将監が家康の元を訪れ、井伊軍の状況を説明した後
「今日の戦いには勝利したが兵には死傷者が多く、明日の先鋒を務めるのは無理です」
と言上した。家康は聞いていないような雰囲気で特別なことも言わず
「直孝、今日はでかした」
とだけ発言した。
そこに重量が来て、将監が帰ろうとしている最中に報告。
「直孝殿は今日の勝利について意気揚々とし、この勢いのまま明日も先鋒となり敵をことごとく討ち破ると勇んでいます」
「直孝ならそうであろう。さすがは直政の子だ」
家康は機嫌良く答えた。
「直孝殿はそのように勇んでいますが、兵士は疲れ馬も傷つき失っています。いかに武勇に優れていても、明日の先鋒は家康様の判断で代えていただく訳にはいかないでしょうか。直孝殿は納得しないでしょうが、そこを何とかお願いします」
重量の願いを家康は了解し、先鋒を前田利常・本多忠朝にした。これを聞いた将監は赤面して出て行っている。(『近古武事談』)

東京都世田谷区豪徳寺の豪徳寺にある井伊直孝の墓
管理人・・・この文章の締めは『戦場の深味を知らないといけない』となっています。
Copyright (C) 2003 Tikugonokami.