団右衛門の首

 樫井の戦いで討死した塙直之の首は家康の本陣に送られたが、暑さのために腐っていたおり家康自身による首実検が行われなかった。
 その夜、井伊直孝の陣に騒ぎが起き、これを知った家康が訳を尋ねた。すると直孝が事情を説明。京都から連れてきた女性が痙攣を起こし気を失い、その後、気がついたかと思うと急に騒ぎ始めていたのだ。
「我は一手の大将である。それなのに首実検しないのはどうしてか。このままだと我の祟りのために徳川軍は勝利できないであろう」
 兵士達が直之の霊が女性に乗り移ったのだと気味悪がった。

塙団右衛門の墓
大阪府泉佐野市南中樫井にある団右衛門の墓

「分かった。では首実検を行なおう」
 家康は女性の言葉に従い、直之の首実検を行った。そこで直孝が陣所に戻ってこのことを女性に告げると
「さすが家康公は名将であられる。首実検をしてもらって死後の面目これに過ぎるものはない。徳川軍の勝利は間違いない」
 と何度も叫んでいるうちに再び気絶した。
 これを聞いた家康は直孝に命令。
「その女は直之と関係があったに違いない。調べろ」
 そこで直孝が女性を厳しく取り調べると、女性は本当のことを白状した。
「昔、直之様に世話になったことがあったので、首実検をされないのを知って怒りを覚え、直之様のためにそういう行動に出ました」(『校合雑記』)

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