敵に追いやるのか

 大坂冬の陣の開戦前後に、豊臣秀頼から池田利隆の許に二字兼光(刀)と『今度大坂に味方すれば三ヶ国を任せよう』という書簡が届けられた。利隆は刀を豊臣家に返し、書簡は本須勘右衛門に持たせ京都所司代・板倉勝重の許にやった。しかし対面した勝重の口から予想もしない言葉が出た。
「利隆殿には異心があると思える。そのことを上に報告する」
 勘右衛門は大いに驚き、その理由を尋ねると
「利隆殿に忠義の心があるなら大坂からの書簡は封をしたまま差し出すだろう。内容を見て差し出したということは、もし内容が気に入ったなら大坂に味方するということだ」

 困った勘右衛門はいろいろと弁明に努めたが勝重は聞き入れない。そこで顔つきを変え
「貴殿の言うことは関東のためと言いながら敵を増長させる行為だと思います。主君に異心無いのに讒言するなら身の置き所がなくなって恐らく大坂に味方するでしょう。そうされるのが徳川家への忠誠と言えますか」
 と嘆いたり怒ったりして訴えた。
「その通りだ。利隆殿には異心がないことを報告しておく」
 勝重は勘右衛門の言い分に納得し書簡を預かった。戻った勘右衛門がことの成り行きを利隆に伝えると利隆から激賞されている。(『池田家履歴略記』)

板倉勝重の廟所
西尾市貝吹町入の長円寺にある勝重の廟所

UPDATE 2005年8月4日
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