広島者

 大坂の陣の最中、江戸に抑留されていた福島正則は刀屋善太郎を町に出して、戦いの様子を毎日聞かせに行かせた。正則は豊臣軍が優勢だと聞くと機嫌を良くした。
「皆若いのに、いやいや健気なことだ」
 その頃、大坂にいる息子の正勝から本部新左衛門が使いとして江戸に来て、大坂の陣の様子を語った。新左衛門が木村重成が槍を付けた真似をするなどして巧みに話すため、そこにいた者達は話しに引き込まれた。

広島市内
現在の広島市内

「私たちは今回来る途中で嫌な目に会いました」
 話が終わると新左衛門は道中での話をし始めた。
「何があったのだ」
「関ヶ原の戦い以降、福島家の者と言えば道中でも鬼神のように恐れられました。しかし今回は草津石部から先は福島家の者と言えば店屋の女どもまで鼻にかけ会釈もなく、馬子(馬をひいて人や荷物を運ぶことを職業とした人)にも侮れている始末。面目なくそれからは広島者ということを隠して江戸まで来ました。道中では口々に『今度の戦いでは福島殿は豊臣秀頼を助けるべきなのに卑怯である』と噂していました」
 正則の問いに対して新左衛門はありのままを語った。正則はもっともと思い何も答えず涙ぐんだ。
 その翌年、新左衛門は言い過ぎたことを気にして加賀に走ったという。(『武辺雑談』)

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