寝過ごす

 大坂夏の陣の際に御目付役となった横田重量だったが、どうしてしまったのか、ある日寝過ごしてしまい、陣場の見分(けんぶん)に間に合わなかった。仕方なく後から行くと同僚達が理由を尋ねた。
「どうして遅れたのだ」
「今朝、浜手の方が心許なかったので巡見してきたのだ」
 重量は嘘をついた。しかし皆が「そうか」と納得したので事が済んだ。
 陣後、旗本達の武功を吟味する際、重量も役目を仰せつかったが、辞退を申し出た。
「私は夏の陣のある朝、疲れていたので寝過ごしてしまいました。しかし嘘をついて本当のことを言いませんでした。そんな私が諸士の武功吟味という今日のような大切な役目を受ける訳にはいきません」
「そういった気持ちがあるからこそ吟味の役を命じたのだ。評価をしてくれ」
 それが上意だったため、重量は役目を引き受けている。(『古老噺』)

UPDATE 2006年4月21日
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