柳の水

 大坂冬の陣が起こった際、伊達政宗豊臣秀頼からの使者・和久是安が来て豊臣家につくように依頼。しかし政宗は承知せず、是安は徳川秀忠のもとに送られた。
 陣後、是安は伊達家の家臣となる。政宗は是安が筆の達人だと聞いていたので何か書くよう命じた。ところが是安は拒絶。
「奥州は下国(律令制で最下等の国のこと)なので水が悪く書けないです」
「どこの水でも変わりはないのに、もったいぶることだ」
 政宗は呆れた。
「そういう理由ではないです。京都の柳の水でないと書けないのです」
 是安が弁解するので、政宗は柳の水を密かに取り寄せて、再び是安を呼んで書くように命じた。
「紙はいいのですが、奥州の水が悪いので自信がありません」
 是安が文句を言いながら一行ほど書いてみた。
「これはいい水です。これなら書けます」
「これは地元の清水だ」
 政宗が是安を試すために嘘を言うと、是安は解せない様子で答えた。
「それは納得がいかない。柳の水だと思いました」
「お前があまりにも水のことを口にするので、京都から柳の水を取り寄せた。これでも文句を言ったのなら恥をかかせようと考えていたのだ。だが、そのようなことは無かった。その方の筆跡は見事なものだ」
 政宗は真実を話して感心している。(『掃集雑話』)

伊達政宗の像
宮城県仙台市青葉区川内1の青葉城(仙台城)に建つ伊達政宗の像

Copyright (C) 2005 Tikugonokami.