飲み残し

 大坂落城後、豊臣秀頼の遺児・国松が捕まった。拘留先で酒を飲ませてもらっていたところ、井伊直孝が通りかかった。直孝は喉が渇いていたため、国松の酒が残った盃を取ったが
「運の尽きた者の飲み残しなど忌々しい」
 と縁側に捨ててから新しいお酒を飲んだ。すると国松の乳母が抗議。
「その方は作法を知らぬ者だ。御代が御代ならいただくことが出来ないものなのに。その方などに御盃を飲ませることは思いもよらぬ」
 そう言うと盃を取り返した。直孝は顔を真っ赤にして、その場を去っている。(『武辺雑談』)

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