舵取り

 真田信吉は帰陣すると、父の真田信之に頼み事をした。
「今度、鎌原伊右衛門が比類なき働きをし重傷を負いました。また伊右衛門の家臣も三人戦死しております。加増をお願いします」
 しかし信之は涙を拭って
「お前にそれほど判断力がないとは。それでは真田家は立ち行かないだろう。伊右衛門の実力は知っているので、その話しは本当だろうが、戦いでは敵に劣っている。敵を討たずにその身は斬られ家臣の中で討ち死にする者を出す。それのどこに勝ちがあって功があるのか。負けて逃げることは武士の恥だ。負け戦をした者に加増したら、今度の戦いで功があった者には何をやるのか。皆に加増したら上田・沼田の領地を残らずくれてやっても足りない」
 と諫めた。(『続武家閑談』)

真田信之の霊屋
長野市松代町松代1015−1の長国寺にある真田信之の霊屋

UPDATE 2005年6月17日
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