騙される

 大坂城に篭った湯川権八は大野治長の先鋒となり討ち死にした。その権八の家来・某は武功の者だったが、戦場から脱出して紀伊に帰って隠れ住んだ。しかし訴える人があって浅野長晟に情報が伝わり探し出されてしまう。そして大坂城から戻った者はすべて磔にかけろとのお達しがあった。
 だが某は顔つきがただ者ではないため、騙して捕らえるために油断しやすい場所に呼びつけて問い糾した。
「お前は権八の家来なら治長の生死を知っているだろう。治長は討ち死か行方知れずか分からない。もし教えればお前の身分は保証する」
「恥ずかしながら主人の討ち死にすら知らないまま甲斐なく逃げ帰った大臆病者です。どうして治長様の居場所を知っているでしょうか。そういうことはもっと勇ましい人物に尋ねてください」
 浅野家の者は某の弁解を信じて帰してしまった。すると某は帰るとすぐに切腹して果てている。(『校合雑記』)

管理人・・・『油断しやすい場所』というのは原文では『穏便なるところ』となっています。

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