憐れまれる

 長宗我部盛親は大坂落城の前日、譜代の家臣を集めた。
「汝らは早く落ち延びろ。この城で功を立てることは叶うまい。私も落ち延びてもう一度再起をする。もし生け捕られても何かの謀をめぐらして生き延びる」
 そう言うと盛親自身も大坂城を脱出し、河内禁野の市辺茂右衛門の屋敷内の葦原に隠れた。しかし屋敷の小者に見つかり茂右衛門に密告され、手勢の者が鉄砲で囲まれた。
「鉄砲を放て」
 茂右衛門が命令した時、盛親が出てきて
「私は落人だ。侍同士、困った時はお互い様ではないか。命を助けてほしい。京都に上りたいだけなのだ」
 と丸腰のまま手を合わせて頼んだ。
「腰の物はどうした」
 茂右衛門が問うと
「天野川に捨てた」
 と盛親が答えた。あまりに労しく思った茂右衛門は
「山に沿って京都に行くといい」
 と教えて逃がしている。(『韓川茶話』)

長宗我部盛親の肖像画
京都蓮光寺所蔵・盛親の肖像画

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