勇者の証

 大坂冬の陣で、備前岡山城主・池田忠継の使番・毛利孫左衛門が前線に向かった。
「俺は朝から敵近くにいたので、銃弾を浴びて旗指物がぼろぼろになった」
 前線にいた村山越中という者が、自分の活躍を訴えた。しかし孫左衛門は越中をじっと見た後、訴えを無視する。
「自分は特に選ばれて母衣を許された者である。貴様のような者に騙されぬ」
「騙すとは言葉が過ぎよう」
 越中はさすがに顔色を変えて抗議し、抜刀しそうな勢いだったが、孫左衛門は冷静に指摘。
「おぬしは朝から竹把の陰に隠れて一歩も出なかったのだろう。その証拠に指物の先のみが裂かれている」
 図星を指された越中は何も言い返せなかった。(『常山紀談』)

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