山伏の正体

 大坂冬の陣直前、紀州の九度山を脱出した真田幸村は無事に大坂に到着し、単身で大野治長の屋敷を訪問。その頃、幸村は伝心月叟と号し剃髪した姿で案内をお願いしたため、奏者番は幸村とは思わなかった。
「どこから来た山伏か」
「大峯鳥の山伏です。御祈祷に来たので会わせてください」
 幸村は冗談で手を合わせてお願いした。
「殿は御登城なので留守だ。こちらで待つように」
 奏者番に案内された部屋では、若い侍が10人ほどで刀や脇差の目利きを行なっていた。一人の若者が幸村に向かって頼んだ。
「和尚の刀や脇差を見せられよ」
「山伏の刀などはただ犬威しのためなのでお目にかける物ではないです。それに刀の良し悪しはよく分かりませんが、慰み程度にご覧ください」
 幸村は言われたままに刀を差し出した。しかし若者がスルリと抜くと、金の光り具合などが見事な物だった。
「山伏は良い刀を差している。脇差も見せろ」
 他の若侍がそれを見て脇差も見せてもらうと、そちらも正宗や貞宗の銘が入った立派な物だった。

真田庵(善名称院)
和歌山県伊都郡九度山町九度山1413にある真田庵(善名称院)

 その場にいた誰もが『これはただ者ではない』と怪しみ始めた頃に、治長が戻ってきた。そして奏者番に話しを聞き、幸村と会った。
「これはこれは。近日中とは思っていましたが早速のお越し、大変満足に思います。秀頼公のお耳に伝えましょう」
 丁寧に手をついて挨拶し、城に使いをやった。すると使者として速水守久が来た。
「秀頼公は遠方より早速のお越しにご満足されている。宿で不自由しているだろう」
 当座の資金として黄金200枚、銀30貫目を与え
「組や与力のことは後で伝える」
 若侍達は驚いて萎縮してしまった。幸村は面白い男だったので後々まで彼らに会っては
「刀の目利きは上達したか」
 と尋ねて赤面させている。(『武辺咄聞書・武辺叢話』)

真田幸村像
上田市の上田駅前に建つ真田幸村像

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